いわゆる運がよい人や成功しつづける組織をよく調べてみると、宝くじを当てるように幸運が降って湧いたわけではなく、「運が、構造 化している」ことがわかる。人や組織の運は、実はそれを取り巻くネットワークのトポロジー、つまり、隣の友人や遠くの知人(ノード、結 節点)と、ネットワークを通してどのようにつながっているかという、構造特性に依存する部分が大きい。重要なのは、あなたが直接、誰を 知っているかよりも、その誰かがあなたの知らない誰かを知っており、その人がさらに、他の誰を知っているかということなのだ。しかも、 五感でとらえられる範囲しか知らない人間固有の認知限界によって、本人たちはそのことに気がつかない。だから、これは運だと錯覚する。
 ところ が、実際に意識しなくても、成功する人や組織は、遠距離交際と近所づきあいの、絶妙なバランスをとりながら活動している場合が多い。濃密な近所づきあい (高いクラスター係数、high clustering coefficient)を維持しながら、他方では、いくつかの触手をはるか遠くへ伸ばし、情報伝達経路のつなぎ直し(rewiring, リワイヤリング)をして、通常ならけっして結びつかない遠距離のノード(node, 結節点)とも、短い経路(short path length)でつながっている。そこで得られた冗長性のない情報を、巧みに利用するのである。これこそが、近年グラ フセオリーに基づくシミュレーションによって数学的に解明された、スモールワールド・ネットワークの不思議なメリットである。それはいわば、遠距離交際と 近所づきあいの良いとこ取りなのである。

 「遠距離交際と近所づきあい」西口敏宏、NTT出版